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健やかな心を支える薬膳の知恵。「心」を整える食材で、穏やかな毎日を

  • 執筆者の写真: 道敬 大塚
    道敬 大塚
  • 9月24日
  • 読了時間: 6分
薬膳で心によい食材のイメージ画像

「なんだか最近、落ち着かない」「夜、なかなか寝付けない」「ドキドキすることが多い」——そんな心のモヤモヤや不調を感じることはありませんか?

東洋医学(中医学)の考え方に基づく薬膳では、こうした心の状態は、五臓の一つである 「心(しん)」 の働きと深く関わっていると考えます。この「心」は、単に血液を送り出すポンプとしてだけでなく、私たちの精神活動や意識、睡眠をもコントロールする、いわば「生命活動の中心」となる大切な器官です。

本記事では、この「心」の働きを薬膳の視点からひも解き、日々の食卓で簡単に取り入れられる「心を養う食材」をご紹介します。お伝えする内容は、特定の症状を治療するものではなく、あくまで健やかな心と体のバランスを保つための「体質改善」のヒントです。より充実した毎日のために、食生活を見直すきっかけにしていただければ幸いです。

薬膳で考える「心」の役割~精神の安定と睡眠の要~

薬膳における「心」には、主に2つの重要な機能があります。

  1. 血脈(けつみゃく)を司る(血液循環のコントロール)「心」は気や血(けつ:血液とその栄養)を全身に巡らせるポンプの役割を果たします。この機能が健全であれば、顔色がよく、手足も温かく、活力に満ちた状態を保つことができます。

  2. 神明(しんめい)を司る(精神活動の統括)これは「心」の最も特徴的な機能で、私たちの意識、思考、記憶、情緒、睡眠など、すべての精神活動を主宰すると考えられています。つまり、「心」の状態がそのまま精神の状態に反映されるのです。

この「神明」を司る機能が安定している状態を 「心安らぐ」 と表現します。逆に、何らかの理由で「心」の機能が弱まったり(「心気虚(しんききょ)」)、栄養不足になったり(「心血虚(しんけっきょ)」)、熱を持ったり(「心火亢進(しんかこうしん)」)すると、精神面に以下のような不調が現れやすくなるとされています。

  • 不安感、物忘れが増える

  • 不眠、夢をよく見る

  • 動悸、息切れ

  • 口内炎ができやすい

  • 何となく落ち着かない

現代社会はストレスが多く、オーバーワークや睡眠不足が続くと、知らず知らずのうちに「心」に負担がかかっています。食事の面からこの「心」を労わり、穏やかな精神状態をサポートしていきましょう。

「心」を養い、安定させる3つの食材カテゴリー

「心」の不調には、いくつかのタイプがあります。ご自身の状態に合わせて、取り入れたい食材の方向性を見てみましょう。

1. 「心」の気を補い、活力を養う食材

疲れやすく、やる気が出ない、少し動くと動悸がする——そんな「心」のエネルギー不足(心気虚)が気になる方に。元気の源となる「気」を補う食材がおすすめです。

  • 代表食材:米、うるち米、山芋、かぼちゃ、さつまいも、牛肉、鶏肉、豆類、蜂蜜

  • ポイント:基本的なエネルギー源となる穀類やイモ類、タンパク質をしっかり摂ることが第一歩です。特にお粥は消化吸収が良く、「気」を補うのに最適です。

2. 「心」の栄養(血)を補い、落ち着きを与える食材

顔色が悪い、不眠や眠りが浅い、ドキドキする——これは「心」を潤し、落ち着かせる「血」が不足している(心血虚)サインかもしれません。血を補い、精神を安定させる「養血安神(ようけつあんしん)」の働きを持つ食材を取り入れます。

  • 代表食材:蓮の実(れんし)、ナツメ、竜眼肉(りゅうがんにく)、小麦、卵黄、桑の実、くこの実、豚のハツ(心臓)、レバー

  • ポイント:ナツメや竜眼肉は、そのままおやつにしたり、スープやお粥に加えたりすると甘味も出て食べやすくなります。小麦は、ゆでてサラダにしたり、全粒粉のパスタなどで摂取できます。

3. 「心」の熱を冷まし、興奮を鎮める食材

イライラする、口が渇く、口内炎ができる、寝付きが悪い——そんなときは、「心」に余分な熱がこもっている(心火亢進)可能性が。体の熱を冷まし、精神をリラックスさせる「清熱安神(せいねつあんしん)」の食材が有効です。

  • 代表食材:緑茶、豆腐、豆乳、トマト、きゅうり、セロリ、蓮の芯(れんしん)、百合根(ゆりね)、ハブ茶

  • ポイント:夏の暑さや、辛いもの・脂っこいものの摂りすぎは「心」に熱をこもらせやすくします。暑い季節やストレスが強い時は、これらの食材を意識して取り入れましょう。

今日の食事から始めよう!「心」を整える簡単薬膳レシピ

ここで、ご紹介した食材を使った、どなたでも作りやすい簡単レシピを2つご紹介します。

【心の血を補う】ナツメと蓮の実の安神粥(あんしんがゆ)

<材料(2人分)>

  • ご飯…茶碗1杯分

  • 水…400ml

  • 乾燥ナツメ…5~6個

  • 乾燥蓮の実…10粒ほど

  • 鶏ささみ…1本

  • 生姜…ひとかけ

  • 塩…少々

<作り方>

  1. ナツメは種を取り、蓮の実は軽く水で洗っておく。鶏ささみは一口大に割く。生姜は薄切りにする。

  2. 鍋にご飯、水、ナツメ、蓮の実、鶏ささみ、生姜を全て入れて中火にかける。

  3. 煮立ったら弱火にし、ふたを少しずらして、時々混ぜながら20分ほど炊く。

  4. 食材が柔らかくなったら塩で味を調えて完成。

<薬膳的ポイント>

  • ナツメ、蓮の実:ともに「心」の血を補い、精神を安定させる「安神」作用の代表格です。

  • お粥:胃腸に負担をかけずに効率よく栄養を吸収でき、「気」を補います。寝る前に食べるのは避け、夕食や休日の朝食などにゆっくりと味わってください。

【心の熱を冷ます】百合根とトマトのやさしいスープ

<材料(2人分)>

  • 百合根…1個(100g前後)

  • トマト…中1個

  • 玉ねぎ…1/4個

  • 鶏がらスープの素(粉末)…小さじ1

  • 水…400ml

  • 塩・こしょう…少々

  • パセリ…お好みで

<作り方>

  1. 百合根は1片ずつばらし、汚れをさっと洗う。トマトはくし切り、玉ねぎは薄切りにする。

  2. 鍋に水、鶏がらスープの素、玉ねぎを入れて火にかけ、玉ねぎが透き通るまで煮る。

  3. 百合根とトマトを加え、さらに5~7分ほど煮て、野菜が柔らかくなるまで加熱する。

  4. 塩・こしょうで味を調え、お好みでパセリを散らす。

<薬膳的ポイント>

  • 百合根:「心」の熱を冷まし、咳を鎮め、精神を落ち着かせる優れた食材です。

  • トマト:体の余分な熱を冷まし、潤いを与える作用があります。ほっと一息つきたい時、気持ちが高ぶっている時にぴったりの、シンプルなスープです。

健やかな「心」のためにもう一歩!避けたい食習慣と心がけたいこと

良い食材を取ることも大切ですが、同時に「心」に負担をかける習慣を見直すことも重要です。

  • 刺激物の摂りすぎに注意:コーヒー、濃いお茶、辛い物、アルコールなどは、適量であれば気血の巡りを良くしますが、過剰摂取は「心」に熱を生じさせ、興奮状態を招くことがあります。

  • 食べすぎ・夜遅い食事を避ける:胃腸に負担がかかると、そこで大量の気血が消費され、「心」までエネルギーが巡らなくなります。特に就寝前の食事は睡眠の質を下げ、「心」を休められません。

  • バランスの偏りに気をつける:特定の食材だけに固執するのではなく、五味五色(ごみごしょく)を意識し、様々な食材からバランスよく栄養を摂ることが基本です。

まとめ:食事を通じて、健やかな「心」を育むサポートを

いかがでしたでしょうか。薬膳の考え方では、「心」の健康は日々の食事と密接につながっています。今回ご紹介した食材は、即効性を求めるものではなく、あくまでも体の内側からゆっくりと「心」の状態を整え、穏やかでいるための土作りをサポートするものです。

「今日はなんだか落ち着かないな」と感じた日は、ナツメを一粒つまんでみる。あるいは、夕食にお粥を作ってみる。そんな小さな積み重ねが、健やかな「心」を育む一歩になります。

ご自身の体調と相談しながら、無理のない範囲で、薬膳の知恵を日々の生活に取り入れてみてください。食が、心のよりどころとなるような、そんな穏やかな時間が増えますように。


 
 
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