薬膳で学ぶ肝臓ケア!中医学の視点から見る春の養生と食材選び
- 道敬 大塚
- 9月24日
- 読了時間: 8分

はじめに
春の訪れとともに、薬膳の世界では「肝」の季節が始まります。中医学における「肝」は、西洋医学の肝臓とは異なる概念で、より広い意味での生命活動を司る重要な機能として位置づけられています。現代社会では、ストレスや不規則な生活により、この「肝」の働きが乱れやすくなっているとされます。今回は、薬膳の視点から「肝」の役割を理解し、日常の食事を通じてどのようにサポートできるかを探ってみましょう。
中医学における「肝」の概念
中医学の「肝」と西洋医学の肝臓の違い
中医学における「肝」は、単一の臓器を指すのではなく、身体全体の機能システムを表す概念です。西洋医学の肝臓の機能も含みますが、それ以上に広範囲な働きを担っているとされています。
中医学の「肝」の主な機能
疏泄機能: 気血の流れを調節する働き
蔵血機能: 血液の貯蔵と調節を行う働き
筋膜を主る: 筋肉や腱の動きに関わる働き
目に開竅: 視覚機能との関連
爪に華: 爪の健康状態に反映される働き
「肝」の季節的特性
中医学では、「肝」は春の季節と密接に関連していると考えられています。自然界のすべてが芽吹き成長する春は、人体においても「肝」の働きが最も活発になる時期とされています。
春と肝の関係
気温の上昇に伴う新陳代謝の活性化
成長・発展のエネルギーの高まり
感情の動きが活発になる時期
デトックス機能が高まる季節
新しい環境への適応が求められる時期
現代社会における「肝」の不調
現代人が抱えがちな「肝」の問題
現代社会の生活環境は、中医学でいう「肝」の働きを乱しやすい要因に満ちています。
「肝」の不調を引き起こしやすい要因
ストレス: 仕事や人間関係によるプレッシャー
不規則な生活: 夜更かしや食事時間の乱れ
運動不足: 気血の流れの滞り
過度の飲酒: 西洋医学的な肝臓への負担
感情の抑圧: 怒りや焦燥感の蓄積
「肝」の不調が現れやすい症状
中医学では、「肝」の働きが乱れると、以下のような状態が現れやすいとされています:
身体的な変化
目の疲れや乾燥感
爪の状態の変化
筋肉の張りやこわばり
頭部の重さや締め付け感
消化機能への影響
精神的な変化
イライラしやすさ
気分の落ち込み
集中力の低下
情緒の不安定
やる気の減退
薬膳における「肝」をサポートする基本理論
肝の疏泄機能をサポートする考え方
薬膳では、「肝」の疏泄機能を整えることを重視します。これは気血の流れをスムーズにし、感情のバランスを保つことを意味します。
疏泄機能をサポートする食材の特徴
理気作用: 気の流れを良くするとされる食材
疏肝作用: 肝の働きを調整するとされる食材
清熱作用: 過度な熱を冷ますとされる食材
養血作用: 血液を補うとされる食材
季節に応じた「肝」のケア
春は「肝」の季節とされるため、この時期の食材選びは特に重要です。
春の「肝」ケアの基本方針
苦味のある食材で「肝火」を鎮める
酸味のある食材で「肝」を養う
緑色の食材で春のエネルギーを取り入れる
旬の山菜でデトックスをサポート
柔らかな調理法で消化しやすくする
「肝」をサポートする薬膳食材
春におすすめの基本食材
緑色の野菜類
春菊: 苦味が肝火を鎮めるとされる
セロリ: 理気作用があるとされる
ほうれん草: 養血作用があるとされる
小松菜: 清熱作用があるとされる
ニラ: 温性で気血の流れを促すとされる
春の山菜類
ふきのとう: 苦味で冬の毒素を排出するとされる
たらの芽: 体内の余分な熱を取るとされる
わらび: 清熱利湿作用があるとされる
ぜんまい: デトックス作用があるとされる
菜の花: 理気作用があるとされる
酸味のある食材
梅: 肝を養い、疲労回復をサポートするとされる
酢: 血液の流れを良くするとされる
トマト: 清熱生津作用があるとされる
いちご: 肝腎を補うとされる
レモン: 理気化痰作用があるとされる
年間を通じて活用できる食材
薬食同源の食材
クコの実: 肝腎を補養するとされる
なつめ: 気血を補うとされる
黒きくらげ: 血を養うとされる
百合根: 心肝を安定させるとされる
蓮の実: 心腎を交通させるとされる
ハーブ・スパイス類
ローズ: 理気解鬱作用があるとされる
ミント: 疏肝理気作用があるとされる
柑橘類の皮: 理気化痰作用があるとされる
ジャスミン: 理気開鬱作用があるとされる
菊花: 清肝明目作用があるとされる
季節別「肝」ケア薬膳レシピ
春の薬膳レシピ:デトックススープ
材料(4人分)
春菊: 1束
ふきのとう: 6個
豆腐: 1丁
えのきだけ: 1パック
昆布だし: 800ml
薄口醤油: 大さじ2
酒: 大さじ1
塩: 少々
作り方
ふきのとうは半分に切り、苦味を抜くため軽く下茹でする
春菊は3cm長さに切り、豆腐は一口大に切る
昆布だしを火にかけ、ふきのとうとえのきを加える
沸騰したら豆腐を加え、調味料で味を整える
最後に春菊を加えてさっと煮て完成
初夏の薬膳レシピ:梅と鶏肉の蒸し物
材料(4人分)
鶏もも肉: 2枚
梅干し: 4個
長ネギ: 1本
生姜: 1片
酒: 大さじ2
醤油: 大さじ1
ごま油: 少々
作り方
鶏肉は一口大に切り、酒と醤油で下味をつける
梅干しは種を除き、粗く刻む
長ネギは斜め切り、生姜は千切りにする
蒸し器に鶏肉と野菜を入れ、梅干しをのせる
15-20分蒸し、仕上げにごま油をかける
夏の薬膳レシピ:苦瓜と卵の炒め物
材料(4人分)
苦瓜(ゴーヤ): 1本
卵: 3個
豚肉薄切り: 100g
にんにく: 1片
塩: 少々
ごま油: 大さじ1
作り方
苦瓜は半分に切り、種とワタを取り薄切りにする
塩もみして10分置き、水気を切る
豚肉は一口大に切り、にんにくはみじん切り
フライパンでにんにくを炒め、豚肉を加える
苦瓜を加えて炒め、溶き卵を流し入れて仕上げる
秋の薬膳レシピ:菊花と白きくらげのデザート
材料(4人分)
白きくらげ: 20g
菊花(乾燥): 5g
氷砂糖: 30g
水: 500ml
クコの実: 大さじ1
作り方
白きくらげは水で戻し、石づきを取り一口大に切る
鍋に水と白きくらげを入れ、弱火で30分煮る
菊花を加えて5分煮、氷砂糖で甘みを調える
冷蔵庫で冷やし、クコの実を飾って完成
冬の薬膳レシピ:なつめと生姜の温活茶
材料(4人分)
なつめ: 6個
生姜: 1片
桂皮: 1本
蜂蜜: 大さじ2
水: 600ml
作り方
なつめは半分に切り、種を除く
生姜は薄切りにする
鍋に水、なつめ、生姜、桂皮を入れて煮る
弱火で15分煮出し、茶こしでこす
カップに注ぎ、蜂蜜を加えて完成
日常生活での「肝」ケアのポイント
食生活でのポイント
食事のタイミング
朝食をしっかり摂る:肝の働きが活発な時間帯
夕食は軽めに:肝の休息時間を確保
規則正しい食事時間:体内リズムを整える
調理法の工夫
春は軽やかな調理法を選ぶ
油を使いすぎない調理を心がける
生野菜と加熱野菜のバランスを取る
季節の食材を積極的に取り入れる
生活習慣でのサポート方法
適度な運動
散歩やウォーキングで気血の流れを促進
ヨガやストレッチで筋肉の緊張をほぐす
深呼吸で気の流れを整える
十分な休息
質の良い睡眠で肝の回復を促進
夜更かしを避ける
リラックスタイムを設ける
感情のケア
ストレスを溜め込まない
趣味や娯楽でリフレッシュ
自然に触れる機会を増やす
体質別「肝」ケアのアプローチ
肝気鬱結タイプ
ストレスにより気の流れが滞りやすい方におすすめのアプローチ:
特徴
イライラしやすい
胸の詰まり感
溜息が多い
情緒不安定
おすすめ食材
柑橘類の皮(陳皮)
ローズ
ジャスミン茶
セロリ
香りの良い野菜
肝血不足タイプ
血液不足により肝の栄養が不足しがちな方におすすめのアプローチ:
特徴
目の乾燥
爪の状態が悪い
顔色が悪い
集中力低下
おすすめ食材
レバー類
ほうれん草
黒きくらげ
なつめ
黒豆
肝陽上亢タイプ
肝の陽気が過剰になりやすい方におすすめのアプローチ:
特徴
頭部の熱感
血圧が高め
顔面紅潮
興奮しやすい
おすすめ食材
菊花
決明子
セロリ
苦瓜
清熱作用のある食材
注意すべきポイント
薬膳実践時の注意事項
個人差への配慮 薬膳の効果や適性には個人差があります。以下の点にご注意ください:
体質に合わない食材は避ける
アレルギーの有無を確認する
妊娠中・授乳中は医師に相談
持病がある場合は専門家に相談
バランスの取れた食生活
栄養バランスの重要性 薬膳の考え方は参考にしながらも、基本的な栄養バランスを保つことが重要です:
三大栄養素のバランス
ビタミン・ミネラルの摂取
水分補給の心がけ
食べ過ぎ・偏食の回避
医療との連携
専門医への相談 薬膳は予防的な食養生法であり、治療法ではありません:
症状が続く場合は医療機関を受診
薬膳は補完的な位置づけとして活用
自己診断による実践は避ける
定期的な健康チェックを継続
まとめ
薬膳における「肝」の考え方は、現代人の健康管理において新しい視点を提供してくれます。中医学の「肝」は、単純な臓器の概念を超えて、気血の流れ、感情のバランス、季節への適応など、総合的な生命活動を表しています。
春は「肝」の季節として、新陳代謝が活発になり、デトックス機能が高まる時期とされています。この時期に適切な食材を選び、規則正しい生活を心がけることで、一年を通じて健やかに過ごす基盤を作ることができるでしょう。
苦味のある山菜、酸味のある食材、緑色の野菜など、春の恵みを活かした薬膳は、現代人が抱えがちなストレスや疲労感に対する自然なアプローチとなるかもしれません。
ただし、薬膳は万能ではありません。基本的な生活習慣の改善が最も重要であり、必要に応じて現代医学との連携も大切です。古来の知恵を現代の生活に上手に取り入れながら、自分らしい健康管理方法を見つけていきましょう。
毎日の食事を通じて、季節と調和しながら心身のバランスを整える。そんな薬膳の知恵が、あなたの健やかな生活をサポートしてくれることを願っています。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的なアドバイスではありません。健康に関する具体的なご相談は、医療専門家にお尋ねください。薬膳の理論は伝統的な考え方に基づくものであり、現代医学とは異なるアプローチであることをご理解ください。



