薬膳で知る目の疲れ対策。デスクワークやスマホ疲れは「肝」を労わる食事から
- 道敬 大塚
- 9月24日
- 読了時間: 6分

一日中パソコンと向き合うデスクワーク、通勤中のスマートフォン、家でのテレビ視聴——現代生活は、目を酷使する環境に囲まれています。「目が疲れる」「かすむ」「乾きを感じる」といった不調は、もはや日常の一部となっていませんか?
そんな目の疲れを、単なる「目の使いすぎ」と捉えるだけでなく、体全体のバランスの乱れとして考えるのが、東洋医学(中医学)に基づく「薬膳」の考え方です。薬膳において、目の健康と深く関わっているのが、五臓の一つである 「肝(かん)」 です。
本記事では、この「肝」と目の関係をひも解きながら、日々の食事でできる目のケア方法をご紹介します。ここでお伝えするのは、目の病気を治療するものではなく、あくまで健やかな目を保ち、疲れにくい体質づくりをサポートするための「食のヒント」です。内側から目をいたわる方法として、参考にしていただければ幸いです。
薬膳で考える「目の疲れ」~「肝」は目に窓を開く~
東洋医学の古典には、 「肝は目に窓を開く」 という言葉があります。これは、「肝」の状態が、そのまま目の状態に現れることを意味しています。
ここでいう「肝」は、西洋医学の肝臓の機能に加えて、全身の「気」(エネルギー)や「血」(けつ:血液とその栄養)の流れをスムーズにし、それを必要な部位に貯蔵・分配する役割を担っています。この「肝」の機能が健全であれば、十分な「血」が目にスムーズに送り届けられ、目は潤い、はっきりと物を見ることができるのです。
しかし、以下のような要因で「肝」の機能が低下すると、目の不調が現れやすくなります。
「肝血(かんけつ)不足」: 「肝」に蓄えられる「血」が不足した状態。目に十分な栄養が行き渡らなくなるため、疲れ目、かすみ目、ドライアイ、視力低下などの原因になると考えられます。長時間の目の使用、睡眠不足、過度なダイエットなどが要因です。
「肝陰(かんいん)不足」: 「肝」を潤す「陰液(いんえき)」が不足した状態。いわば、オイル切れを起こしたようなもので、目の乾燥、かすみ、しょぼつきなどを招きます。加齢や、慢性的な疲労、夜更かしが要因となることが多いです。
「肝火上炎(かんかじょうえん)」: ストレスなどで「肝」の気の流れが滞り、それが熱に変わって炎上した状態。目の充血、痛み、腫れぼったさ、頭痛などを伴うことがあります。
つまり、薬膳的なアプローチでは、目の疲れを感じた時、それは単に目を休めるだけでなく、「肝」を労わり、その機能をサポートする食材を摂取することが根本的なケアにつながると考えるのです。
目の疲れにアプローチ!薬膳の食材カテゴリー
目の不調のタイプに合わせて、取り入れたい食材の方向性を見ていきましょう。
1. 「肝」の血(栄養)を補い、目に潤いを与える食材
「肝血不足」による疲れ目、かすみ目、ドライアイが気になる方に。目の栄養源となる「血」を補い、目の機能を高める働きが期待できます。
代表食材: くこの実、ブルーベリー、ブドウ、黒ごま、ナツメ、プルーン、豚レバー、鶏レバー、イカ、エビ、卵黄、ほうれん草、小松菜
ポイント: 色の濃い野菜や果物、黒い食材、レバーなどに豊富です。くこの実はそのままスープやヨーグルトに、黒ごまはすりごまにして和え物にすると吸収率がアップします。
2. 「肝」を潤し、目の乾燥を防ぐ食材
「肝陰不足」による目の乾燥やしょぼつきが気になる方に。体の潤い(陰液)を補い、渇きを癒す働きがあります。
代表食材: 白きくらげ、豆腐、豆乳、牛乳、梨、百合根、牡蠣(かき)、ホタテ、イカ
ポイント: 白くてみずみずしい食材、貝類などに多く含まれます。白きくらげはデザートやスープに、梨はそのまま食べるか、すりおろして摂取するのがおすすめです。
3. 「肝」の熱を冷まし、充血を鎮める食材
「肝火上炎」による目の充血や痛み、腫れぼったさが気になる方に。体の余分な熱を冷まし、炎症を鎮める働きがあります。
代表食材: 菊花(きくか)、クチナシの実、セロリ、ゴーヤ、トマト、緑茶、豆腐、ハブ茶
ポイント: 菊花茶は目の充血や疲れに昔から用いられてきた代表的なお茶です。ゴーヤやセロリなどの苦味のある野菜にも、熱を冷ます作用があります。
今日から実践!「肝」と目をいたわる簡単薬膳レシピ
ここで、日常の食卓に簡単に取り入れられる、目の疲れ対策におすすめのレシピを2つご紹介します。
【肝血を補う】くこの実と黒ごまの簡単和え物
<材料(2人分)>
ほうれん草…1束
くこの実(乾燥)…大さじ1
すりごま…大さじ1
醤油…小さじ1
みりん…小さじ1
<作り方>
くこの実は軽く水で洗い、少量の水(分量外)で5分ほどふやかしておく。
ほうれん草は茹でて水気をしっかり絞り、3~4cmの長さに切る。
ボウルにほうれん草、ふやかしたくこの実、すりごま、醤油、みりんを入れて和える。
器に盛り付けて完成。
<薬膳的ポイント>
くこの実: 「肝」と「腎」を補い、目を明るくする作用があるとされる、目の疲れ対策の代表食材です。
黒ごま: 「肝」の血を補い、髪や目の健康を保つ働きがあります。
ほうれん草: 鉄分やビタミンが豊富で、血を補うサポートをします。短時間でできる副菜なので、忙しい日の一品としてぜひ取り入れてみてください。
【肝を潤す】白きくらげと梨のデザートスープ
<材料(2人分)>
乾燥白きくらげ…5g
梨…1/2個
冰糖(氷糖)またはきび砂糖…お好みで(大さじ1~2)
水…300ml
くこの実(お好みで)…小さじ1
<作り方>
白きくらげは水でさっと洗い、たっぷりの水に浸して戻す(2~3時間、または一晩)。戻ったら石づきを取り、小房に分ける。
梨は皮と芯を取り、一口大に切る。
鍋に水、戻した白きくらげ、くこみを入れて火にかける。煮立ったら弱火にして20~30分ほど煮て、きくらげを柔らかくする。
梨と砂糖を加え、さらに5~10分煮る。
温かいままでも、冷やしていただいても美味しいです。
<薬膳的ポイント>
白きくらげ: 体全体を潤し、特に肺や目の乾燥を防ぐ優れた食材です。
梨: 体の熱を冷まし、潤いを与える作用があります。喉の乾燥にも良いです。目が乾燥しやすい秋の季節や、エアコンで乾燥する室内にいる時間が長い方におすすめの、ほんのり甘いデザートです。
食事と合わせて見直したい生活習慣
食事でのケアと同時に、目の疲れをため込まない生活習慣も心がけましょう。
十分な睡眠をとる: 夜は「血」が「肝」に戻り、修復される時間です。特に深夜0時前までの就寝が理想的とされています。
意識的に目を休める: パソコン作業の合間に1時間に10分は休憩を入れ、遠くを見るなどして毛様体筋をリラックスさせましょう。
ストレスをため込まない: ストレスは「肝」の気の流れを滞らせ、目の不調の原因になります。適度な運動や趣味で発散を。
まとめ:内側からのケアで、健やかな目をサポート
いかがでしたでしょうか。薬膳の考え方では、目の健康は「肝」の健康と切り離せません。目が疲れたと感じるときは、体の内側から「肝」をいたわるサインです。
今回ご紹介した食材やレシピは、医薬品のように即座に効果を発揮するものではありません。しかし、続けることで、疲れにくい体質へと導き、健やかな目を保つための土台作りをサポートしてくれます。
「今日は目がしょぼしょぼするな」と感じた日は、くこの実を一粒つまんでみる、ほうれん草のおひたしを食べるなど、できることから始めてみてください。食事を通じて、あなたの目をいたわる習慣を始めてみませんか。



