薬膳とは?初心者にもわかる基礎知識、毎日のお悩みをサポートする食の智慧
- 道敬 大塚
- 9月22日
- 読了時間: 5分

「薬膳」と聞くと、どのようなイメージをお持ちでしょうか?「難しそう」「専門的」「漢方薬を使うの?」と思われる方も多いかもしれません。しかし、薬膳の基本はとても身近で、私たちの日々の健康をサポートするための生活の智慧です。この記事では、薬膳の基本的な考え方やその魅力、今日から始められるポイントを、初心者の方にもわかりやすく解説します。
薬膳とは何か?現代に活きる中国伝統医学の智慧
薬膳(やくぜん)とは、中国に古くから伝わる中医学(中国伝統医学) の理論に基づいた食事法のことです。「医食同源」という言葉があるように、食べ物と健康は深く結びついていると考え、日々の食事を通じて体調を整え、健康を維持増進することを目的としています。
「薬」という字が使われていますが、薬膳は医薬品ではなく、あくまで食事の一種です。特別な漢方薬を必ずしも使うわけではなく、普段スーパーで手に入るような食材を、体の状態に合わせて組み合わせることがその本質です。
薬膳の3つの基本的な考え方
薬膳を理解する上で、特に重要な3つの考え方があります。
1. 陰陽(いんよう)
自然界のすべてのものを「陰」と「陽」の2つの性質に分けて捉える考え方です。
陽:温める、興奮させる、活動的な性質(例:生姜、ねぎ、にんにく、羊肉)
陰:冷やす、鎮静させる、落ち着いた性質(例:きゅうり、トマト、豆腐、緑茶)
体のバランスが「陰」に傾くと冷えやだるさを感じ、「陽」に傾くとのぼせやイライラを感じるとされます。薬膳では、自分の体調や季節に応じて、この陰陽のバランスを食事で整えます。
2. 五行(ごぎょう)
自然界のすべてのものは「木(もく)・火(か)・土(ど)・金(こん)・水(すい)」の5つの要素(五行)に分類され、それらが互いに影響し合っているという考え方です。それぞれが対応する「臓器」(肝・心・脾・肺・腎)や「味」、「季節」などがあります。
春(木):肝臓・胆のう/酸味/緑色の食材
夏(火):心臓・小腸/苦味/赤色の食材
土用(土):脾胃(消化器系)/甘味/黄色の食材
秋(金):肺・大腸/辛味/白色の食材
冬(水):腎臓・膀胱/鹹味(塩辛い味)/黒色の食材
この考え方に基づき、その季節に弱りやすい臓器をいたわる食材を摂取することで、不調を未然に防ぐことを目指します。
3. 気・血・水(き・けつ・すい)
中医学では、心身の健康は「気」「血」「水」の3要素が体内をスムーズに巡ることによって保たれると考えます。
気:生命のエネルギー源。活動力や免疫力、新陳代謝を司る。
血:全身に栄養や酸素を運ぶ血液やその働き。
水:血液以外の体液(リンパ液や汗など)。体を潤す。
ストレスや不規則な生活で「気」が滞ったり、「血」が不足したり、「水」の巡りが悪くなったりすると、さまざまな不調が現れるとされます。薬膳は、これらのバランスを整えるお手伝いをします。
薬膳は何がいいの?期待できる3つのメリット
薬膳の最大の魅力は、そのオーダーメイド性にあります。
ご自身の体調に合わせたアプローチができる風邪気味の時、疲れがたまっている時、ストレスを感じている時など、その時の心身の状態(「証」といいます)に応じて、最適な食材を選ぶことができます。画一的な健康法ではなく、自分だけのパーソナルな食事法を実践できるのです。
日々の小さな不調を整えるサポートになる病気とまではいかない「未病」(半健康状態)の段階で、食事からアプローチします。例えば、「最近寝付きが悪い」「夕方にむくみやすい」「食欲がない」といった、日々のちょっとしたお悩みに対して、食材の力でケアすることが期待できます。
季節の変化に負けない体作りを目指せる前述の「五行」の考え方にもあるように、薬膳は季節と深く結びついています。暑い夏には体を冷やす食材、寒い冬には体を温める食材を積極的に取り入れるなど、季節の移り変わりに順応した強い体作りをサポートします。
はじめての薬膳|今日からできる3つの実践ポイント
薬膳は、いきなり難しく考える必要はありません。まずは以下の3点から始めてみましょう。
1. 自分の体の声に耳を傾ける(「証」を知る)
まずは、今の自分の体がどんな状態なのか観察することから始めます。
体は冷えている?ほてっている?
お腹はすっきり?それとも重い?
今日は元気?だるい?
この自己認識が、薬膳の第一歩です。
2. 食材の性質を少しずつ知っていく
全てを覚える必要はありません。よく使う食材の性質をいくつか知っておくだけで、立派な薬膳の実践です。
体を温める食材(温熱性):生姜、にんにく、ねぎ、シナモン、羊肉
体を冷やす食材(寒涼性):トマト、きゅうり、なす、バナナ、緑茶
どちらにも偏らない食材(平性):キャベツ、にんじん、じゃがいも、卵、イワシ
3. いつもの料理にひと工夫加える
特別な料理を作るのではなく、普段の味噌汁に生姜のすりおろしを加えたり、紅茶にシナモンスティックを入れたりするだけでも立派な薬膳の応用です。冷えが気になる日は温める食材を、のぼせが気になる日は冷ます食材を意識して加えるだけでOKです。
薬膳を楽しむための注意点
薬膳は医療行為ではありません:あくまで健康を維持するための食の提案です。明確な病気や症状がある場合は、必ず医師の診断を受けてください。
1回で効果を求めない:薬膳は日々の積み重ねが大切です。即効性を求めるのではなく、続けることで体質が整っていくのを感じましょう。
無理をしない:「体にいいから」と自分の体質や好みに合わないものを無理して食べる必要はありません。楽しみながら、できる範囲で取り入れることが長続きのコツです。
まとめ:薬膳は毎日を慈しむためのライフスタイル
薬膳とは、難しい規則や制約ではなく、自分自身の体と心をいたわり、季節の移ろいを愛しむためのライフスタイルです。
特別な食材は必要なく、まずは今ある食材で、今の自分の体が求めるものをいただくことから始まります。この記事が、薬膳の世界に触れ、ご自身と向き合うきっかけとなれば幸いです。毎日の食卓に、ほんの少しの薬膳の智慧を取り入れて、健やかで豊かな毎日をお過ごしください。
免責事項:本記事でご紹介した内容は、中医学の知識に基づく一般的な情報です。効果・効能を保証するものではなく、医療行為を目的としたものではありません。体調に不安がある場合や治療中の方は、必ず医師や専門家にご相談ください。



