薬膳の知恵で胃腸をいたわろう!胃腸炎の時の食養生と回復サポート
- 道敬 大塚
- 9月25日
- 読了時間: 8分

はじめに
胃腸炎は多くの方が経験する身近な体調不良の一つです。急激な症状により食事が困難になったり、回復期に何を食べれば良いのか迷うことも多いでしょう。そんな時、古来から受け継がれる薬膳の知恵が、胃腸をいたわり回復をサポートするための食事選びの指針を与えてくれます。ただし、薬膳は予防的な食養生法であり、急性の胃腸炎に対する治療法ではありません。今回は、胃腸炎の時の食事における薬膳の考え方と、回復期の食養生について詳しくご紹介します。
※重要な注意事項:この記事は一般的な食養生の情報提供を目的としており、医学的なアドバイスや治療法ではありません。胃腸炎の症状がある場合は、必ず医療機関を受診し、適切な治療を受けてください。特に発熱、激しい腹痛、血便、脱水症状などがある場合は緊急に医師の診察を受けることが重要です。
中医学における胃腸炎の捉え方
胃腸炎の原因別分類
中医学では、胃腸炎の原因を以下のように分類して考えます:
外感湿熱タイプ
細菌やウイルスによる急性の炎症
発熱、嘔吐、下痢を伴うことが多い
夏季に多く見られる傾向
食べ物や水からの感染が原因とされる
飲食不節タイプ
暴飲暴食や不適切な食べ物が原因
冷たいものや脂っこいものの過剰摂取
アルコールの飲み過ぎ
不規則な食事時間による胃腸への負担
脾胃虚弱タイプ
もともと消化機能が弱い体質
ストレスや疲労による消化力の低下
慢性的な胃腸の不調
季節の変わり目に症状が出やすい
情志不遂タイプ
ストレスや精神的な負担が原因
自律神経の乱れによる胃腸機能の低下
現代人に増加している傾向
感情の変化と症状の変動が連動
薬膳による対処の基本方針
薬膳では、胃腸炎の時期や症状に応じて以下のような基本方針を立てます:
急性期の対応
胃腸を休ませることを最優先
水分補給と電解質バランスの維持
刺激の少ない食材を選択
少量ずつ頻回に摂取
回復期の対応
消化しやすい食材から段階的に摂取
胃腸の機能回復をサポートする食材の活用
栄養バランスを考慮した食事内容
体力回復のための滋養食材の導入
胃腸炎の時期別食養生
急性期(症状が激しい時期)
この時期は医療機関での治療が最優先であり、薬膳は補完的な役割として考えます。
基本的な考え方
固形物の摂取は控える
水分補給を最重視
胃腸への刺激を最小限に抑える
医師の指示に従った食事制限を守る
おすすめの水分補給
白湯(人肌程度の温度)
薄い昆布だし
米のとぎ汁(上澄み)
経口補水液(医師の指示により)
避けるべきもの
冷たい飲み物
炭酸飲料
カフェイン含有飲料
アルコール類
糖分の多い飲み物
回復初期(症状が和らぎ始めた時期)
医師の許可を得て食事を再開する時期の食養生アプローチです。
基本方針
消化の良いものから段階的に摂取
温かく柔らかい食材を選択
薄味で胃腸への負担を軽減
少量ずつ様子を見ながら摂取
おすすめ食材
穀物類
重湯: 米を多量の水で炊いた上澄み液
性味:甘・平
胃腸への負担が最も少ない
エネルギー補給にも役立つ
白粥: 米を柔らかく炊いたもの
性味:甘・平
消化しやすく胃腸にやさしい
段階的に濃度を上げていく
調理例:基本の白粥
材料(1人分):
- 白米 大さじ2
- 水 300ml
- 塩 少々
作り方:
1. 米をよく洗い、水と一緒に鍋に入れる
2. 弱火で40-50分、米粒が崩れるまで炊く
3. 塩で薄く味付けして完成
回復中期(食欲が戻り始めた時期)
徐々に食材の種類を増やし、栄養バランスを考慮する時期です。
追加できる食材
野菜類
大根: 消化を助けるとされる
大根おろしで酵素を活用
スープに加えて柔らかく調理
人参: 胃腸にやさしく栄養豊富
β-カロテンが豊富
柔らかく煮て食べやすく
白菜: 水分補給も兼ねる
柔らかい葉の部分を使用
スープや煮物として調理
タンパク質源
豆腐: 植物性タンパク質で消化しやすい
絹ごし豆腐がおすすめ
湯豆腐や茶碗蒸しとして
白身魚: 低脂肪で良質なタンパク質
蒸し魚や煮魚として調理
骨を取り除いて食べやすく
調理例:豆腐と野菜のスープ
材料(1人分):
- 絹ごし豆腐 100g
- 大根 50g
- 人参 30g
- 昆布だし 200ml
- 薄口醤油 小さじ1
- 塩 少々
作り方:
1. 野菜は小さく切り、豆腐は一口大に切る
2. 昆布だしで野菜を柔らかく煮る
3. 豆腐を加えて温める
4. 調味料で薄く味付けして完成
回復後期(通常の食事に戻る準備期)
胃腸機能の完全な回復を目指し、栄養バランスを整える時期です。
段階的に追加する食材
滋養食材
山薬(やまいも): 脾胃を補うとされる
消化酵素を含む
すりおろして粥に加える
蓮子: 脾を健やかにするとされる
心を安定させる作用があるとされる
スープやデザートとして
調理例:山薬粥
材料(1人分):
- 白米 1/3カップ
- 山薬 80g
- 水 400ml
- 塩 少々
作り方:
1. 米を洗い、水と一緒に鍋に入れる
2. 弱火で30分炊く
3. 山薬をすりおろし、粥に加える
4. 5分ほど煮て、塩で味を調える
体質別回復サポート
脾胃虚弱タイプ
もともと消化機能が弱い方の回復サポート:
特徴
回復に時間がかかる
食欲不振が続きやすい
疲労感が強い
冷えを感じやすい
おすすめ食材
温性で消化の良いもの
生姜、陈皮などの温める香辛料
もち米、山薬などの補養食材
少量ずつ頻回摂取
湿熱体質タイプ
体内に湿と熱がこもりやすい方の回復サポート:
特徴
口の中が苦く感じる
食欲はあるが胃がもたれる
便秘になりやすい
体が重く感じる
おすすめ食材
清熱利湿作用のあるもの
はと麦、冬瓜、きゅうり
あっさりとした調理法
油分や糖分は控えめに
予防のための日常的な食養生
胃腸を丈夫にする食習慣
基本的な食事のルール
規則正しい食事時間を守る
腹八分目を心がける
よく噛んでゆっくり食べる
熱すぎず冷たすぎない温度で摂取
季節に応じた食材選び
春: 山菜でデトックス、肝の働きをサポート
夏: 水分の多い野菜で体を冷まし、湿を除く
秋: 乾燥対策として潤いのある食材を摂取
冬: 温性の食材で体を内側から温める
ストレス管理と食事
食事環境の工夫
リラックスできる環境での食事
家族や友人との楽しい食事時間
スマートフォンやテレビを見ながらの食事は避ける
香りの良い食材で食欲を促進
ストレス解消に役立つ食材
柑橘類の皮(陈皮): 理気作用があるとされる
ジャスミン茶: 香りでリラックス効果を期待
セロリ: 気の流れを良くするとされる
ローズ: 理気解鬱作用があるとされる
回復期におすすめの薬膳レシピ
消化サポートスープ
鶏と大根のやさしいスープ
材料(2人分):
- 鶏胸肉 80g(皮なし)
- 大根 100g
- 生姜 1片
- 昆布だし 400ml
- 薄口醤油 小さじ2
- 塩 少々
作り方:
1. 鶏肉は細かく切り、大根は小さく切る
2. 生姜は薄切りにする
3. だし汁に生姜を入れて火にかける
4. 大根を加えて柔らかく煮る
5. 鶏肉を加えて火を通し、調味料で味を整える
胃腸回復粥
はと麦と山薬の養生粥
材料(2人分):
- はと麦 大さじ2
- 白米 大さじ2
- 山薬 60g
- 水 500ml
- 蜂蜜 小さじ1
作り方:
1. はと麦は一晩水に浸しておく
2. 米とはと麦を水と一緒に鍋に入れる
3. 弱火で50分炊く
4. 山薬をすりおろして加える
5. 5分煮て、蜂蜜で甘みを加える
水分補給茶
陳皮生姜茶
材料(1杯分):
- 陳皮 2g
- 生姜スライス 2-3枚
- 熱湯 150ml
- 蜂蜜 小さじ1
作り方:
1. 急須に陳皮と生姜を入れる
2. 熱湯を注いで5分蒸らす
3. カップに注ぎ、蜂蜜を加える
注意すべき食材と調理法
回復期に避けたい食材
消化に負担をかける食材
脂肪の多い肉類
揚げ物や炒め物
香辛料の強い料理
食物繊維の多すぎる野菜
刺激の強い食材
生の野菜や果物
酸味の強い食品
アルコール類
カフェインの多い飲み物
体を冷やす食材
冷たい飲み物や食べ物
アイスクリームなどの冷菓
生魚(刺身など)
冷やし中華などの冷たい麺類
調理法での注意点
おすすめの調理法
蒸し料理: 栄養素が逃げにくい
煮物: 食材が柔らかくなり消化しやすい
スープ: 水分補給も兼ねる
お粥: 最も消化に負担をかけない
避けたい調理法
油を多用した調理
生食
強い香辛料を使った調理
極端に熱いまたは冷たい調理
医療機関受診の重要性
緊急受診が必要な症状
すぐに医療機関を受診すべき症状
血便や黒色便
高熱(38度以上)
激しい腹痛
脱水症状(めまい、意識もうろう)
水分も取れない状態
症状の急激な悪化
継続的な観察が必要な症状
定期的な医師の診察が必要な場合
症状が1週間以上続く
体重の急激な減少
慢性的な消化不良
再発を繰り返す
薬膳の役割と限界
薬膳ができること
回復期の栄養サポート
日常的な予防と体質改善
胃腸に負担をかけない食事の提供
自然な回復力のサポート
薬膳ではできないこと
急性症状の治療
感染症の根本的な治療
重篤な合併症の予防
医学的な診断や処方
まとめ
胃腸炎の時の薬膳は、医療による適切な治療と並行して行う補完的な食養生法として位置づけられます。急性期には医師の指示に従った治療が最優先であり、回復期において薬膳の知恵を活用することで、胃腸の回復をサポートし、再発の予防に役立てることができるでしょう。
最も重要なのは、症状の程度や経過を正しく判断し、必要に応じて適切な医療を受けることです。薬膳は日常的な体調管理や予防に優れた知恵ですが、急性疾患の治療を目的とするものではありません。
回復期における消化にやさしい食材選びや調理法の工夫、体質に応じた食養生の実践により、胃腸の健康維持に役立てることができます。また、日頃からストレス管理や規則正しい食生活を心がけることで、胃腸炎の予防にもつながるでしょう。
古来の知恵と現代医学を適切に組み合わせて、胃腸の健康を守り、豊かな食生活を楽しんでください。何よりも、自分の体の状態を正しく把握し、適切な判断を行うことが最も大切です。
この記事は一般的な情報提供を目的としており、医学的なアドバイスや治療法ではありませ
ん。胃腸炎の症状がある場合は、必ず医療機関を受診し、適切な治療を受けてください。薬膳の理論は伝統的な考え方に基づくものであり、現代医学とは異なるアプローチであることをご理解ください。



