薬膳は自分を知ることから始めよう。体質チェックでわかる、あなたに合った養生法
- 道敬 大塚
- 9月24日
- 読了時間: 6分

「薬膳は体質に合わせて食材を選ぶのが基本」——そんな話を聞いたことはあっても、「そもそも自分の体質がよくわからない」と感じる方は多いのではないでしょうか。
薬膳の世界では、一人ひとりの体質やその時の体調は千差万別と考えます。同じ「疲れ」でも、その原因は人によって異なります。だからこそ、まずはご自身の体の声に耳を傾け、今の状態を理解することが、薬膳を生活に活かすための第一歩なのです。
本記事では、ご自身でできる簡単な体質チェックの考え方と、その傾向に合わせた薬膳の基本的なアプローチをご紹介します。ここでお伝えするのは、医学的な診断ではなく、あくまでご自身の体調の「傾向」を知り、より健やかな毎日を送るための「食のヒント」を見つけるためのツールです。ご自身の体と向き合うきっかけとして、ぜひお役立てください。
薬膳の基本「証(しょう)」を知る~体質を見極めるための羅針盤~
薬膳や東洋医学では、その人の状態を「証(しょう)」という概念で捉えます。「証」とは、体質や現在現れている症状の総合的な様子を指し、これに基づいて養生法や食材を選びます。
この「証」を決定する要素は多岐にわたりますが、中でも基本となるのが 「気・血・水(き・けつ・すい)」 と 「陰・陽(いん・よう)」 のバランスです。
気:生命エネルギーのようなもの。体を動かし、温め、機能を維持する原動力。
血:血液とその栄養分。全身に潤いと栄養を運ぶ。
水:血液以外の体液(リンパ液、汗、涙など)。体を潤す。
これら「気・血・水」が十分にあり、スムーズに巡っている状態が「健康」です。しかし、何らかの理由で「不足(虚:きょ)」したり、「流れが滞る(実:じつ)」たりすると、不調が現れると考えられます。
以下のチェックリストは、この「気・血・水」のバランスがどのように乱れているのか、その「傾向」を探るためのものです。いくつかの項目に分けてご紹介しますので、当てはまるものを数えてみてください。
今の体調の傾向をチェック!セルフチェックリスト
以下の項目で、特に最近感じるものにチェックをつけてみましょう。複数のカテゴリーにまたがることもよくあります。
【気のバランス編】
A. 気が不足しているかも?(気虚:ききょ)
□ 疲れやすく、休んでもなかなか回復しない
□ 声に力がなく、あまりしゃべりたくない
□ 風邪をひきやすい
□ 食欲がない、または食後に胃がもたれる
□ 少し動くと息切れや動悸がする
□ 顔色が青白いまたは黄色っぽい
B. 気の流れが滞っているかも?(気滞:きたい)
□ イライラしやすい、怒りっぽい
□ ストレスを感じると症状が強くなる
□ お腹や胸、脇腹が張って苦しい感じがする
□ ゲップやため息がよく出る
□ のどに何か詰まった感じがする(梅核気:ばいかくき)
□ 食欲にムラがある
【血のバランス編】
C. 血が不足しているかも?(血虚:けっきょ)
□ 顔色や唇、爪の色が白っぽく、つやがない
□ めまいや立ちくらみがする
□ 髪の毛がパサつく、または抜けやすい
□ 眠りが浅い、夢をよく見る
□ 手足がしびれることがある
□ 集中力が続かない、物忘れが多い
D. 血の流れが滞っているかも?(瘀血:おけつ)
□ 顔色がくすんでいる、または黒ずんでいる
□ シミやそばかすが目立つ
□ 慢性的な肩こりや頭痛がある
□ 肌がカサカサしている
□ 生理痛がひどく、経血に塊が混じる
【水のバランス編】
E. 水の流れが滞っているかも?(水滞:すいたい/痰湿:たんしつ)
□ 体が重だるい、むくみやすい
□ 頭が重い、すっきりしない
□ 痰や鼻水が多い
□ 下痢をしやすい、または軟便気味
□ 舌のふちに歯型がついている
□ 太りやすい、特に下半身が気になる
【シンプルに考えたい方へ:寒熱編】
F. 全体的に「冷え」の傾向が強いかも?(寒証)
□ 手足や腰、お腹が冷える
□ 温かい飲み物や食べ物を好む
□ 顔色が青白い
□ 疲れやすく、元気がない
□ 尿の量が多く、色が薄い
G. 全体的に「熱」の傾向が強いかも?(熱証)
□ 顔がほてりやすい、のぼせやすい
□ 冷たい飲み物や食べ物を好む
□ イライラしやすい
□ 口が渇く、喉が痛みやすい
□ 尿の量が少なく、色が濃い
チェック結果を活かす~体質傾向に合わせた薬膳のヒント~
いかがでしたか? いくつかのカテゴリーにチェックが入った方も多いかもしれません。それは、体の不調が単一の原因で起こるとは限らないからです。あくまで傾向を知るためのツールとして、以下のヒントを参考にしてください。
A. 「気虚」傾向の方へ:エネルギーを補給する食事を
アプローチ: 気を補い、消化機能(脾胃)を強化する。
おすすめ食材: 米、うるち米、かぼちゃ、さつまいも、山芋、牛肉、鶏肉、きのこ類、豆類。
ポイント: 基本的な食事をしっかり摂ることが第一歩。特にお粥は消化吸収が良く、気を補うのに最適です。冷たいものの摂りすぎに注意。
B. 「気滞」傾向の方へ:気の流れをスムーズに
アプローチ: 気の流れを整え、ストレスを緩和する。
おすすめ食材: 春菊、セロリ、三つ葉、パクチー、みかん、陳皮、ジャスミン茶、菊花茶。
ポイント: 香りの良い食材を意識して。深呼吸や軽い運動で気分転換を図ることも大切です。
C. 「血虚」傾向の方へ:体に栄養と潤いを
アプローチ: 血を補い、体を滋養する。
おすすめ食材: ほうれん草、小松菜、レバー、プルーン、くこの実、ナツメ、黒ごま、卵黄。
ポイント: 鉄分や色の濃い食材を中心に。しっかり睡眠をとることも血を養います。
D. 「瘀血」傾向の方へ:血行を促進して
アプローチ: 血の流れを良くし、滞りを解消する。
おすすめ食材: 玉ねぎ、らっきょう、青魚、納豆、黒きくらげ、紅花、シナモン、生姜。
ポイント: 適度な運動で血流を促すことも効果的です。
E. 「水滞」傾向の方へ:余分な水分を排出して
アプローチ: 水分代謝を改善し、体の重だるさを取る。
おすすめ食材: はとむぎ、小豆、冬瓜、もやし、緑豆、鯉、春雨。
ポイント: 味の濃いもの、甘いもの、脂っこいものの摂りすぎに注意。適度な運動で汗をかくことも有効。
F. 「寒証」傾向の方へ:体を内側から温めて
アプローチ: 体を温め、陽気を補う。
おすすめ食材: 生姜、ねぎ、にんにく、シナモン、羊肉、エビ、くるみ。
ポイント: 生野菜や冷たい飲み物より、温かいスープや煮物がおすすめ。
G. 「熱証」傾向の方へ:体の熱を冷まして
アプローチ: 体の余分な熱を取り、潤いを与える。
おすすめ食材: トマト、きゅうり、セロリ、ゴーヤ、豆腐、緑茶、菊花茶、白きくらげ。
ポイント: 辛いものや脂っこいものは熱を助長するので控えめに。
まとめ:体質チェックは、自分をいたわる旅の始まり
このチェックリストは、あくまで現在の体調の「傾向」を知るためのものです。体質は季節やストレス、生活習慣によっても変化します。今日の結果が永遠に続くわけではありません。
大切なのは、「今の自分はどんな状態かな?」と定期的に体と対話する習慣を持つことです。その上で、「今日は体が重いから、むくみ対策の食材を選ぼう」「疲れているから、消化の良い温かいものを食べよう」と、食事を選択する一つの指針にしていただくことが、薬膳の実践となります。
この記事が、ご自身の健康を見つめ直し、健やかな毎日を送るための小さなきっかけとなれば幸いです。



